観覧車(短編小説:BON)
短編小説
観覧車(短編小説:BON)
観覧車
育江:さ、着いたよ。ほら、泣き崩れていないで。外の空気吸おう。
育江と美空はドアを開けて車からでる。美空は終始顔をハンカチで覆っている
育江:今日は空いてるかもね。まあ、密室だからね。2人定員だろうな。
二人は歩く。
スタッフ:お二人で
育江:はい。
スタッフ:どうぞ。
育江:入るよ
ゴンドラが動いているところに二人乗り込む。
育江:はい乗った。見てご覧よ。上がっていく景色を見たら落ち着くかもよ。
美空:うん。
育江:ここなら、大声だして泣いていいから。私しかいないし。
美空は嗚咽したあと、静かに話しだした
美空:人生最後の恋愛だったのよ
育江:最後かどうか分からないけど、うちらもぼちぼちいい年だからね
美空:7年付き合った、敏生さん
育江:ああ、敏生さんね、
美空:正直、この年だし、正直子供は作らなくていいと想った。
育江:まあ、うちはアラフィフだしね。そうかもね。
美空:私はこのまま、敏生さんと一緒に暮らす、それだけでいいと想ってた
育江:そうだね。いいところも、悪いところも知り尽くした、敏生さんだからね。
賭け事もやらないし、酒煙草やらないし、理想の彼だもんね
美空:その理想が崩れ落ちたのよ
育江:そうなの。でも浮気するような人でもなかったでしょ。一度だってそんな・・
美空:今まではね!でも今回は違うのよ!
育江:そう。
美空:30歳の若い女性、春奈という会社の後輩に告白されて、
育江:え?そうなの?そんな若い女性にもてる人じゃ
美空:なかったはずなの!でもそんな実直な敏生さん狙ってきた!そういう人が好みだって!
育江:彼だっていい年だし、大人の対応するはず・・・
美空:男って、ほんと若い女好きね!色じかけで誘われたら、ころっと一晩。
育江:あらっ
美空:その一晩がいけなかったのよ
育江:もしかして
美空:妊娠さしちゃったのよ!
育江:じゃあ、彼は。。
美空:責任とるしかない。自分も、最初で最後だと。この年で30歳に見初められるのは。
だから自分は春奈を選ぶ。君とは別れるって。
育江:ひどい!
美空:もう、あたしダメかもしれない。この後の人生、ずっと敏生さんのいる人生しか考えてこなかったし
あたしももうアラフィフで。生きる気力なくなった!
育江:ひどい!ひどいよね。でも、私がいるわ。ばついちの私が
美空:育江~~!
育江:ここは観覧車。大声で泣いていいんだよ。あたしだけしかいないから。
美空:育江~~!
育江:泣くだけないて。見てご覧よ。景色が綺麗よ。そろそろ一番高いところに来るわ。
高いところからみたら、多分、そんなこと小さなことかもしれないよ
美空:うわ~ん
育江:想えば、10年前、あたしが泥沼の離婚劇繰り広げて居た頃、ここに来て、あなたが
慰めてくれたね。覚えてる
美空:。。。
育江:あの時、誓ったの、あなたとは人生を通して親友でいようと。
美空:。。。
育江:その婚約指輪、はずしちゃいなさい。まだ人生は続くの。そして何が起きるかわからないのが人生なの
美空:。。。。
育江:ねえ、相談なんだけど、二人でフラワーアレンジメント始めない?
美空:え?
育江:この先、人生、沈んでいても仕方ないでしょ。新しい世界に飛び込むのよ。新しい人生を歩むのよ
美空:あ・・・たらしい・・人生
育江:そんな人の為に、人生終わりにするつもり?。。さあ、観覧車が下がってきたわ。
ここを出るときは。。もう新しい人生が始まってる。
美空:そうね。フラワーアレンジメント。新しい人生
育江:さあ、泣きおわったら、美空、人生第二章のはじまり。
美空:。。。よし。。たいしたことなかったよ。あんな人
育江:そうそう。その調子。以外と離れてみると、そんなんでもなかってわかるよ。
私もそうだったし。
美空:育江は一人で淋しくないの?
育江:あなたがいるじゃない。私たちは親友だよ
美空:そうだね。ありがとう。決心ついた
美空は指輪を外して座席におく
美空:これここに置いてく。
育江:そう、置いてって、新しい人生はじまるの
美空:そろそろ地上ね。ちょっと顔整えるわ。
観覧車(平松愛理)-----
観 覧車が空へ 昇ってゆく度
さっきまでなかった景色が
どんどん見えてくる
今日に追い立てられて 見失ったものを
忘れてしまうとこだったね
とりあえず今 ここで休んでいこう
ここなら思いきり泣けるでしょ
女同士 何も気にしないで
運転中に助手席で泣かれると
気が気じゃないからね
アイラインまで流れ落ちたら
学生の時のあなたの顔
ハンカチこんなに汚しちゃって
今度は余程のことなのね
山並みが遠く 続いている
海だったとこに ビルが建って
知らないうちに時間は経つね
普段暮らす街は あんな小さいんだね
私達の悩みもきっと
ちいっぽけなことかもよ
取るに足らないこと 泣いたり笑ったり
ひとつひとつに一人一人が
日々精一杯で うん、それでいいんだね
昔この辺野原だったね
そう思うと 私達長いね
どんなに久し振りに会っても
挨拶より会話から始まる
足下を見たらついて来てた
観覧車の影はとても濃くて
それは太陽がしっかりと
私達を応援してるから
一番高いとこ 過ぎた頃に
コンパクトでメイク 直している
地上に降りる覚悟をしたね
観覧車が地上に 近づいてゆく度
ビルや家や道路や人が
どんどん大きくなる
あなたが泣いたのは 頑張っているから
無駄な涙は決してない
その先にはいいコトが待っている
これからも色々 きっとあるだろうけど
いつでもあなたには私がついているよ
まずは ドライブしよう