大人になったら(短編小説 作BON)

短編小説

大人になったら(短編小説 作BON)

大人になったら

だだっ広い空間にブースで囲まれたエリア。恵里は ふと、向かい側のブースを見る。そこでは葉子が、 パソコンの画面をみながら、ヘッドフォンに話しかけて、なにやら打ち込んでいる。 薄く塗られた、葉子のルージュがしなやかに動き、あざやかに見えた。 全身、パープルで包まれた葉子のその姿が、まぶしかった。恵里は、自分のブースの方を向き、 パソコンでインターネット閲覧画面に切り替える。 画面の中に映る、脚本コンテストグランプリの一次合格者の名前を もう一度眺めるが恵里の名前はなかった。どうせ私なんか。と呟いて画面を閉じる。 仕事の画面に切り替わったその画面は無機質に 表示される。葉子は、入力が終わり、ヘッドフォンをとって恵里の方へ向く。なにかあった?葉子は いつもしゃきしゃきしている。 なんでもない。恵里はそう答えると、ゆっくり立ち上がり、管理者の方向に向かう。

小川さんすみません。と恵里がいうと、書類に判子を押しながら、 どうしたという。小川はいつも、遅くまで残業している。 その彼に逆らうように、言った。すみません。先ほど電話がなり、 祖父が亡くなった知らせがきたので、明日、明後日休みます。 そういうと、恵里は下を向いた。小川は早口でいった。そうか、 わかった。じゃあ、あべかんに記入して、チーム内にメール送っておいて。 気おとさんようにな。彼の言葉は優しい響きだったが、恵里には 無機質に聞こえる。もう、6時になる。今日は早く帰っていいよ。 戻ろうとする恵里にこの言葉が聞こえたので恵里は振り返りざまお辞儀をした。

恵里は自席に戻り、パソコンで、休暇申請をする。 そして休暇通知のメールを送った。そしてなにかに 逃げるように帰り支度をする。 葉子はその様子に気づいて、恵里に話しかける。 身内の方なくなったんだって?気を落とさないでね。あなたの案件きたらやっておくわ。 紫に身を包んだ葉子は聡明すぎて、恵里は少し目をそらしながらいった。 ありがとう。と。どうせ葉子にはこの嘘なんてすぐ見抜くだろうと思いながら。

ビルをでても、いつものように家にまっすぐ帰る気にはなれなかった。 同棲中の保治さんを心配させるかなと思いながら、いつもの方向とは逆の方向に 歩きだした。ふと、近くにコンビニがあったので 缶ビール二本とつまみをかった。おやじみたいと 呟いたものの声は空へと消えていった。

ふと、公園をみかけ、ひとりベンチに座る。 缶ビールをあけて、飲む。ため息をついて見上げた 空は少し雲っていた。そして通る曇にたまに隠されながら現れる、 淡い色の三日月。なんか今の心境に フィットすると恵里は感じていた。 そしていかの乾きものの袋をとりだしていたときに あってはいけない人にあってしまう。

あれ、あれ?恵里さんじゃない? はっと気づいて見上げたら、先ほど働いていた、 紫で身を包んだ葉子だった。 なにかを隠すように葉子にいった。 あ、あ、ビール飲まない?つまみもあるよ。

仕事で見る、いつもの葉子とは違い、穏やかな 表情で、じゃあ、少し付き合おうかな。という言葉がかえってきた。 焦るように、葉子に缶ビールを 差し出すと、葉子は受け取りゆっくりベンチに座る

はやく帰ってあげないと、保治さん心配するよ。 葉子はそういうと缶ビールをあけて、一口飲んだ。 この時点で恵里は負けたと思った。完全にずる休みがばれたと悟った。 けど葉子はそれを言わない。

照れ隠しで、いかのつまみを葉子に差し出す。 葉子はちょっとつまんで口に入れる。 少しの間、沈黙が続く。なんとかしようと恵里は 話し出す。ちょっと前に、フラワーショップ 開きたいって葉子ちゃんいってたね。どうなった? 葉子は自信の表情でいった。明日ね、FBで知り合った仲間と フラワーアレンジのワークショップやるの。 今の仕事でだいぶお金貯まったし、もうそろそろ次のステップいけそう。

ちょっと悔しいと思った恵里は言い返してしまう。 私もね、今回のコンテストの一次を通過してさいさきいいの。 葉子は微笑んでいった。お互い頑張ろうね。 そうだね。と笑った恵里は心の中で空虚だった。 私はなんて大人げないんだろう。 葉子は握手を求めてきたので、強く握手した 私はなんで、形だけ大人ぶるのだろう。 葉子はビールを飲み干していった。

ごちそうさま。さて、早く帰ってあげな、 保治さん、あそこで一人しょんぼりブランコに 乗っているおじさん状態になってるかもよ

二人は笑うと、葉子は立ち上がり、去っていった。 一人になった恵里は、スマホをとりだし、昔、 撮った恵里の映る動画を見た。 そこにはまだ中学生の恵里が将来の夢を語っていた。 中学生の恵里はきらきら輝いていた。

<大人になったら 平松愛理>

大人になったら すごい満月より
少し欠けてる月が安心なの
大人になったら 晴れわたる空より
曇ってる方がちょうどいい日がある

大人になったら 元気な人よりも
たまにしょげる人といるとほっとする
大人になったら 足元遠くなり
健気に咲く花に目が届かない

大人になったら 夢見続けること
いつしかどうせってあきらめていく
大人になったら いい人になる努力が
楽に生きていく努力に変わるの

大人になったら  誰かの心に
触りたくても触れなくなるの
大人になったら 欲しいもの欲しいと
すぐ言葉にしては大人げないの

大人になったら とても泣きたくても
こらえておまけに笑ってたりする
大人になったら
何だって出来ると
ずっとすごくすごく憧れてた

私 いつ大人になっていったんだろう
私はなぜ大人になりきれなかったんだろう

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