友情(短編小説昨:BON)

短編小説

友情(短編小説昨:BON)

友情

三月は団地の一室の扉を開ける。玄関は暗い。三月は小さなため息を ついて、玄関の明かりをつける。「静かだな。この部屋」そう言うと 靴を脱いで、居間へと向かう。サラダまで作る元気はない。だから、 一人用のカップサラダをコンビニで買ってきた。三月はサラダをコンビニ の袋から取り出し、テーブルに置いた。上着を脱いで、冷蔵庫を開ける。 ほぼからっぽである。そうあまり買っていないから。ちょっと魔法のように ものが増えていないかなとふと思ったが、自分は今一人であることを思い出していた。 見覚えのないものを探そうとしても冷蔵庫にはなかった。

「タマネギと挽肉と卵だけはある。ピラフでも作ろう。」 三月は冷凍してあるご飯と肉と野菜を取り出し、調理を始める。 ピラフになりたいを口ずさみながら、フライパンを動かす。

そういえば、啓吾は調理がうまかったな。このピラフの作り方も彼に教わった。 そんなことを考えながら無心にしゃもじを動かす。ああ、そうか。 昨日疲れて、洗い物をしていなかったな。皿はフライパンでいいや。このまま食べちゃおう どうせ、一人なんだしいいでしょ。三月は自分で納得するように独り言を言う。

テーブルの上に濡れぞうきんをおいて、フライパンを置いた。これでいいや。食べちゃおう。 そこそこ啓吾のおかげで、料理はうまくなったが、孤独が三月の表情を暗くしている

。 三月はフライパンを皿かわりにして、ピラフを食べはじめた。そしてサラダも。 半分ぐらい食べたところで、ため息をつき、ぼーと前方を見る。1つのアイテムがあるのを見つけた。 マリンシャープスである。啓吾が好きだったすごく辛い香辛料である。三月はそれを手にとった。

2週間前まで、この部屋には啓吾がいた。玄関開けると、マリンシャープスが香った。 三月は辛いものが苦手でマリンシャープスには手が出せないものだったが、この匂いがすると 啓吾を思い出す。あの日は、豆乳スープスパゲティを作ってくれた。 そう、豆乳スープがピンク色になるまで、マリンシャープスをかけて食べていたね。

「僕はこのピンク色になったスパゲティが好きなんだ。食べてみる?」
「あたしは白いままでいいや。あたしには白の味がしっくりくるの」
「ははは。まあ、これは僕だけの嗜好品ってことか」
「でもこの豆乳スープ旨いね。そうそう、彼女できたんだって?おめでとう」
「ははは三月に言われると照れるな。最初、僕が居候しようとここに転がり込んだとき、 君はとても嫌そうな顔してたじゃないか。」
「そうだったっけ?・・まあいいや。そんな君にプレゼント。ショートケーキ買ってきたよ。」
「おお、ありがとう。辛いもののあとで、甘いものか。」
「私、甘党なんで。」
「そうだったね」
「いろいろあったけど、1年いろいろありがとう。助かったよ」
「それはこちらの方。洗濯や掃除、料理もしてくれていたし」
「またお互いの過去の恋バナもね・・夜更けして議論したりしたりして」
「そういう日あったね。ビール何本ここで飲んだか」
「まあせいせいするわ。合鍵を作ろうと思っていたけど必要なさそうね」
「男女の友情なんてあり得ないなんていうけど、うちらはそれが確立できたのは大きいね」
「そうだね。今日で、それもしばらくお休みかな?」
「そうだね、ここに入り浸っていたら、誤解されて振られちゃいそうだから」
「じゃ、啓吾の未来を願って。乾杯」
「乾杯。それと永遠の友情の握手」
「いいね」

二人は長く握手を交わす。

いけない。ピラフが冷めてしまう。三月はスプーンでピラフをすくう。 あれから2週間。長いようで短い2週間。 ふとラインの音が鳴る。啓吾かな?と思ったら、職場の同僚からだった。 少し期待した私が馬鹿だった。あれから2週間、啓吾からラインがない。啓吾らしいといえば 啓吾らしい。でも、当たり前のようにいた啓吾の存在が、いつのまにかあたしのなかで 大きくなっていた。あたしも啓吾に負けてらんない。幸せにならないと。

三月はマリンシャープスにめがけて独り言をいう。 ここに来るときは連絡して。冷蔵庫いっぱいにしとくから。

友情ー平松愛理

嫌そうな顔 君にして見せたけれど
本当はそうでもなかったんだよ
君の荷物が私の部屋に増えて
友達の約束ない夜にくること

君とはなしていると 普段を忘れて
ここが別の空間になるみたい
冷蔵庫 開け おぼえのないもの見ると
私は独りじゃない気分になる

恋愛じゃなくても 癒せるんだね
人ってやっぱりすごいんだね
君が彼氏じゃなくて本当によかった
だって終わることがないんだもの

不便だから合い鍵つくろうかなって
そんなこと思いはじめてた頃
君の荷物とここ来る夜が減って
そうしてとうとう君は恋を見つけた

誰もこなくなると 部屋は散らかるね
炒飯はフライパンがお皿になった
冷蔵庫には期限切れのままのもの
私は前よりもっと独りになった

さよならと明るく見送ってる
助手席に彼女を乗せた車
ポケットの合い鍵 渡さず良かった
だって誤解されちゃ 困るもの

恋は人の心全部さらっていくね
友情はあとまわし
だって君は来やしない・・・
来やしない・・・・・

彼女との生活慣れることに
君は忙しいだけ 変わってないよね
もし遊びにくるなら ちょっと電話して
空の冷蔵庫を一杯にしとく


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