あなたのいた夏(短編小説 作BON)
短編小説
あなたのいた夏(短編小説 作BON)
あなたのいた夏
組み立て式倉庫のようなだだっぴろいフロアに男性が2人、女性が2人
黙々と仕事をしているようだ。ようだ。というのは、男性は二人とも、
スマホいじって動画を見ているからだ。今日は日曜日、管理者は不在である。
男性らも夕方ぐらいまでは作業をしていたが、17:00も過ぎる頃になると
もう真面目に仕事などしていない。それを横目に果歩はしらけたような
表情しながら、タブレット端末をみている。
果歩「これはもうバッテリーが寿命きているわね。バッテリーとりかえるかなんか
しないとだめね」
優香「ああ、そうなんだ。じゃあ、私、梱包して、A便で送り返しちゃうね」
果歩「お願いします」
優香「了解、あ、でももう17:40分か、明日やろう。明日、もう帰ろうよ」
果歩「はは、定時まであと5分あるでしょ」
優香「果歩はいいじゃん、明日、代休でしょ」
果歩「そうね、今日は代理出勤だったからね」
優香「果歩は最近、プライベート忙しくなさそうだね。前、結構、なんとか交流会、
フェイスブックの?で、帰りばたばたしてたのに。写真もばしばしとってさ、
インスタとかあげてたのに最近どうしたの?」
果歩「ああ、なんかね、疲れちゃってね。元々、副業やる為に、写真やる人と繋がったけど
いろんな交流会出て、なんか意味あるのかわからなくなってしまって」
優香「ああ、あるあるだね。友達を増やす為の交流。でも友達になっても関係は薄いみたいな
で、人数が増えてチャンスはあまりなく、お金がかかるみたいな」
果歩「2,3人でいいんだよなーと思ったらめんどくさくなってきてさ」
優香「そういうわけか。最近、仕事も結構残業してるみたいだし」
果歩「一人家で、飲んでもね」
果歩のスマートフォンが揺れる。果歩は、スマホを見る。少しの間、果歩は固まる。
優香「ははーん。その2、3人からきたのかな。お疲れ様。私は帰り支度するわ」
果歩「・・・お疲れ様」
果歩のスマートフォンには友達からのメッセージが書かれていた。
「今日あの二人はあの店にいるよ」
果歩はゆっくりと「わかった、ありがとう」と返した。
しばらく果歩は動かないでいた。優香が声をかける。
優香「定時だよ。お疲れ様」
果歩「お疲れ様。」
無表情に果歩は優香にコトバを返す。優香は部屋をでていく。他の男性二人もスマホにイヤホンしたまま
帰り支度をして、無言で部屋を出る。
果歩はゆっくりと立ち上がり、帰り支度をする。そう、本当は副業は、実はあまり真剣に考えていなかった。
ただ、あの時、私は仕事を頑張ると思っただけ。忘れようとするだけの。
旧友からのメッセージに、心揺さぶられる。あの店。そう、この職場からあの店は歩いていける。
やっぱりあなたに逢いたい。いくらその恋が叶わぬものであったにしても。
果歩は荷物もって、倉庫の電気を消して、カードをかざす。そして外に出る。
今日は8月31日、まだ、外は明るかった。夏の終わり静かな夕方。
あの二人は必ずテラス席にいるはず。旧友からのメッセージで読み取った。
この時間ならあの通りならば、必ず、私を見つけられるはず。
計算しながら、歩く。店の前をゆっくりと歩く。
和美「あ、もしかして果歩じゃない?果歩ー!」
果歩「あ、あれ?和美?あ、晶哉さんも」
晶哉「果歩、久しぶり。ちょっと寄っていかない?しゃべろう」
果歩「あ、いいの?お邪魔じゃない?」
和美「全然」
果歩「じゃあ、失礼して」
果歩は指がかすかに震えてるのを隠して、テラス席へ行く。
逢いたかった。晶哉さん。さわやかさは変わらないな。
和美「あれ?今日、彼は?」
果歩「仕事」
晶哉「日曜出勤か」
果歩「そうなの」
彼なんかいない。架空の彼がいたほうが、あなたに逢えるからそうしてるだけ
心が叫んで、でも表情は変えない。
ウエイトレスが注文とりにきて、コーヒーを頼んだけどとても飲む気分になれない。
和美「ここはパンケーキが美味しいんだよね」
そういいながら、パンケーキを切って、晶哉の口の傍までもっていく。
和美がいなかったら、今私はどんな気持ちなんだろう。
和美が、今日晶哉とどこにいったのか、楽しそうに話す。
果歩は、和美の話を聞いているふりをして、1年前のことを想いだしていた。
果歩と晶哉が二人で海にいったときの夏の日。あの日のことを想いだしていた
あの時、ビーチで手を繋いでいたら、こんな運命にはならなかったんだろうか。
そんなことを考えながら。
ドラえもんがいたら、タイムマシンにのって、運命かえることできたかもしれないのに。
楽しくて辛い3人のデートはあっという間に終わってしまった。
ここは閉店が20:00.
ここから駅はすごく近い。電車に乗る方向が、二人が別々の方向だったらよかったのに。
そしたら、晶哉と2人になれたのに。笑顔で二人を見送る先には涙。
今夜はお酒を飲まずにはいられない。自宅の最寄り駅のコンビニで、チューハイを買って、
歩きながら飲む。
ふと空を見上げると、流れ星が流れてた。何の為の流れ星。流れ星は夢を叶えてくれるんじゃないの?
叶わない状態を諦めるなというメッセージ?
叶わない恋を諦めないのも恋でしょ?・・そう解釈してもいいの。
果歩はスマホで去年の夏に撮った、晶哉との海のデートの時の写真を眺めていた
あなたのいた夏 <平松愛理>
このOpen Cafeは偶然じゃない
二人はあの店だよと聞いたから
呼び止められる道わざと歩いた
あなたにあなたに会いたかった
「彼氏は?」ときかれ
「今日も忙しい」って言って
すぐ飲むワインは味がしない
こうゆう嘘は3人で居る為に
必要だとおぼえた
実らない恋を
あきらめないのも恋でしょ?
幸せはいつも捜すためにある
そう自分に言い聞かせる
風に乱された
彼女の髪をひと筋
直してあげるあなたの指の傍に私はいる
下りのホームには笑顔の二人
混みあう上りで手を振る私ひとり
ジェラシーとあなたに背を向け気づく
私は誰ともつながってない
あなたと歩いた夏
あの帰り道で手を
つないでたら違ってたかな
どうして人は過去を振り向くのだろう
もう手遅れな夢ほど
誰か気づいたの?
今のあの流れ星
闇の末にあるネオンが吸い込んだ
私の祈りを待たずに
あなたの窓から
地上の縁は見えない
こぼれてひとりまたたく気持ち
届きようもないけど
実らない恋を
あきらめないのも恋でしょ?
自分で作る幸せだってある
だって想いは殺せない
あなたと会える孤独なら
ひとりで抱えて生きていける
こんなに誰か想える気持ち
あなたが教えた恋という窮屈を
私は生きていく
しっかり生きていく