短編平松曲小説(部屋とYシャツと私~あれから)

短編小説

短編平松曲小説(部屋とYシャツと私~あれから)

部屋とYシャツと私~あれから

25周年の約束。美絵は通帳棚にしまっていた、夫からのディナー招待状を取り出す。それは22年前、娘の夏海が 生まれた時にくれた私たちの未来の招待状。タイムカプセルのようにとっておいたのを開けてみた。そこには 生まれたばかりの夏海の写真と丁寧な几帳面な夫の字が書いてあった。夏海の就職が決まる頃、僕らは2人の カップルに戻って、レストランで2人で乾杯しよう。そう書いてあった。ついにこの日が来たのね。美絵は 招待状をそっと胸に充ててみる。・・いろんなことがあったね。特製スープつくってやろうかと想ったときもあったし、 あなたのいびきがうるさくて、喧嘩して、それから寝室は別でとなった時のこと。でも悪いことばかりじゃなかった。 あなたはまめで、おおざっぱな私を手助けしてくれた。ちょっとケチなとこがたまに傷だけど。

「おい、何してる。もういくよ」
「ちょっと待って」

美絵は招待状をしまい、別の扉を開けて、あなたが25年前にくれたパールのネックレスをつける。 このとき、あなたは豪勢な金の使い方だったな。夏海が生まれてから、あなたはすごくケチになった。

「おーい」
「もういく」

美絵は急いで玄関にかけてく。

「いつまで時間かけてんだ」
「女性はこんなときは時間がかかるものなの!」
「それは知らなかったな」
「今日ぐらいゆっくりいきましょうよ」
「時間までには到着したいからな」
「楽しくいきましょう。記念の日だから」
「夏美は?」
「大学の友達と飲み会よ」
「男はいないだろうな?」
「今日はそんなこと心配しなくていいのよ」
「そうなのか?」

智則はジャケットを気にしている。

「夏美は男とデートじゃないだろうな?」
「あなたとは違って夏美は異性関係はきちんとしてるわ」
「昔のことをうだうだと、今日、楽しくいこうといったじゃないか」
「そうだっけ?」

智則は逃げるように歩きはじめる。美絵は追うように智則について行く。 レストランは智則が予約した。そういうところはまめだ。体裁だけは気にする人だから。 だけど、メニューを見たとき、智則の顔つきが変わった。 ぼくはワインだけでいいと言い出した。それじゃ、あたしはステーキオーダーできないじゃない。 今日の為に、昼飯代をケチっていたんじゃないの?夜は飲んで帰ってくるくせに。

「とりあえず乾杯だ。」
「そうね」
「乾杯」
「乾杯」

あたしは夏海のことで一生懸命になって、ときめきは減ったかもしれない。 だけど、あたしはあたしなりにやってきた。そしてこれからも。 智則にもう正直ときめきは感じない。一緒にいる人になった。 でもそういうものかもしれないな。

「25年前のこと覚えてる?あなたが結婚式の二次会でこけそうになったこと」
「覚えてるよ。真っ暗だったからね。サプライズで。危なかったよ。結婚式で骨折なんかしたら
洒落にならないからね」
「あのとき、私に25年後の招待状を書いてくれたね」
「・・忘れたよ。そんなこと」
「今日は何の日?」
「さあね」
「ステーキ頼んでいい?」
「お前が払うならな」
「ケチ」
「スパゲティなら許そう」
「あ、そうじゃ、今度、西須磨小学校の同窓会があるのよ。」
「へえ」
「靴かっていい?」
「なぜ、靴が必要なんだ?」
「必要でしょ?買ってよ」
「必要ない」
「ケチ」
「じゃ、へそくりでエステにいっちゃうから」
「へそくりもってるならよこせよ」
「嫌よ」

相変わらずケチね。でもいいや、夏海も就職決まったし、いっちゃおう。こっそりと。

「それより、お袋がそろそろ80なんだけど」
「お母様と同居の話?あまり興味ないわ」
「興味とかいう問題じゃない」
「そうかしら。ケチを直してくれたら、考えるわ」
「僕はケチじゃない。倹約家だ」
「今日みたいな日に使うのが倹約家だと想うけど」
「お袋も年だからな」
「もう夏海も就職したし、あなたとなら離れても大丈夫」
「なにが大丈夫なんだ?おい」
「ふふふ」
「ふふふじゃないだろう?」
「確かに、この家は2人で住むには広いから、お母様の近くのマンションにひっこしてもいいよ」
「近く?同居じゃなくて」
「あとで考えとくわ」

真面目だから憎めない人。なんか恋愛ではないよね。これが夫婦かもしれないね。 でも、今日ぐらい、こういうこと忘れて優雅に食事したいもんだわ。



あれY(平松愛理)

お願いがあるのよ あなたの苗字になった私
こんなに時が経った今 ちゃんと聞いてほしい
飲みすぎて帰っても あなたのご飯はあるけれど
食べたらきちんと洗って、お皿と私の機嫌をなおして
部屋とYシャツと私 愛するあなたのため
毎日磨いていたいから
心の小さなホコリ あなたがキレイにして 笑顔でいさせて

トキメキは減っても女の勘は衰えない
あなたは嘘つくとき右の眉があがる
あなた浮気したら 私は子供を守るから
結婚祝いのカップに 特製スープ ひとりで逝って

部屋とYシャツと私 愛するあなたのため
毎日素敵でいたいから
久しぶりの同窓会 エステとバックと靴
胸はって 行かせて

大地を割るような あなたのいびきは大問題
幸せは夫婦別室で 朝のおはよう 好き
やがて家族増えて キスと会話が減っていったね
私の呼び名も変わって 世界中いる「ママ」になった

子供も無事に巣立ってお義母様とも同居
あなたが選びたくなったら
最初はこう言わせてね 私はあなたとなら離れても大丈夫

もし私が先立っていつか彼女出来たら
最高の妻だったと言って
天国でその言葉とあなたの右の眉
見定めたいから

部屋とYシャツと私 愛するあなたのため
毎日磨いていたいから
人生の記念日には君は綺麗といって
私を名前で呼んで

その気でいさせて


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