『エリちゃんのひまわり』

『エリちゃんのひまわり』

平松愛理

『エリちゃんのひまわり』

平松愛理

『エリちゃんのひまわり』

「BON」さんの五歳のころを想定しました。 近所の大好きなおねえちゃん、「エリちゃん」のために一所懸命です。 いや、「お化けひまわり」のために。頑張れ「たっちゃん」!負けるな「たっちゃん」!

  『エリちゃんのひまわり』    2003・4・5

その一(五歳の花咲かじいさん)

「エリちゃん、この花咲かないの?」 私は高橋愛理子。中学二年生です。 ある夏の日、私はたっちゃんにこんな質問をされました。 たっちゃんは、私の家に毎日遊びにくるお隣の五歳の男の子です。かわいい! 「この花」とは「ひまわりの花」のこと。 私の家の物置小屋を建て直すときに、コンクリートと道路にはさまってしまったのでした。 「さぁ、咲かないかもね・・・」 と私は答えました。するとたっちゃんが、 「大丈夫。僕がかわいそうなひまわりを咲かせるんだ!  花咲かじいさんみたいに」 と言うのです。まだ五歳の幼稚園児が。 たっちゃんの目には、茎が細く、何かあやまっているように下をむいた「ひまわり」がはっきりと映っていたのです。 私はそんなたっちゃんを見ていると、なんだか「ひまわりの花」が本当に咲くん じゃないかと、ふと思いました。 その二(あぁ、やっぱり…)

次の日から、たっちゃんの水くみが始まりました。 毎日家に来ては、小さな体で側溝(そっこう)からバケツにいっぱい水をくんでは、「ひまわり」にいっぱい水をかけ、 「早く咲かないかなぁ…」と、しゃがんで見ているのです。 それが、一日二回、一週間続きました。しかも一日も休むことなく。

そして何日かたったある日のことです。部活動からくたくたにつかれて帰ってきた私は、家でゴロゴロしていました。 その時にガラガラっと戸のあく音がしたかと思うと、かん高いたっちゃんの声が しました 「エリちゃん、エリちゃん早く来て!」 「たっちゃん、どうしたの?」 急いで廊下に出てみると、たっちゃんは泣きそうな顔をして玄関に立っていました。 「どうしたの?エリちゃんに言ってみて」 と言うと、「こっちに来て、早くっ!!」 と言って私をひっぱるのです。 あわてて外に出てみると、そこには茎だけがヒョロヒョロとのびて、葉の色がこ い緑の、へんな「ひまわり」が申し訳なさそうに立っていました。 黄色のきれいな花びらもなく、たねのぎっしりつまった所も見えません。 ただ、小さなつぼみだけが高い所でゆらゆらとゆれているのです。 たっちゃんはうなだれていました。 私は、たっちゃんに何と声をかけてあげたらいいかわかりませんでした。 私はその夜、あの小さなたっちゃんがどんな思いで、この花の世話をしてきた のかと思うと、とてもかわいそうでねむれませんでした。 その三(お化けひまわりが!)

ところが次の日の朝、信じられないことが起きたのです。 夜眠れなかったせいでウトウトとしていた所に、外からたっちゃんの声が飛び込んできました。 「やった!お化けひまわりに、花が咲いたー!」 私は急いで外に出てみました。 「あっ!」 私は一言そう言うと、もう言葉がでませんでした。 そこにはヒョロヒョロとした茎に、うすい黄色い花びらと、小粒だけれどたねの びっしりつまった「ひまわり」が咲いていました。 たっちゃんは、「ひまわり」のまわりを何回も何回も飛びはねていたのです。 私はたっちゃんの一生懸命さが花を咲かせたんだと思いました。 毎日毎日、水をくんでいたたっちゃん。 たっちゃんの一生懸命さに咲いた「お化けひまわり」 私はこの出来事を一生忘れないと思います。



(「心に残るとっておきの話 第四集」潮文社編集部編から、抜粋・ 再編・加筆)

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