卒業(創作)

卒業(創作)

●居酒屋個室(夜)
広井順(42)はタブレットで自分の作ったHPをみている。
ウーロン茶を飲む。暁弘(56)は広井が見ているタブレットを見ている。

弘「で、お前はどうしたいんだ?あいつはちゃんとぶったぎったか?」
順「三家さんは自分の結婚式にも来てくれたし、ライブレポートもたくさん
書いてくれたし、今でもたくさんメールくれるし」
弘「それが何だ?いっとくが奴は平松の自分の想うようにしたいだけだ。
お前の為にレポート書いているんじゃないよ。わしはすでにぶったぎったぞ」
順「しかし長年のつきあいを・・。」
弘「そもそもお前だぞ。三家のことで悩んでいるとメールくれたのは。
二分以内にメール返さないときれるとか、電話して急に1時間泣かれたとか
面倒だと思わないのか。いい人やったところで何にもならん」
順「しかし、彼女は平松の情報をもってきたりライブレポート20本書いてる」
弘「わしが、手をきった理由はな。順。彼女はファンとは言わないんだよ。
アーティストに感想を持つことはいいが、それを要求することだ。
ファンだったらアーティストの決めたことについてゆく。イヤだったら
ファンをやめればいいだけだ。結局彼女は、自分のおもいどおりに
アーティストに求めているだけだ。毎回のように、これ伝えて、あれ伝えて。
私に云うなってんだ。彼女とは卒業しろ。お前の為にも平松の為にもならん」
順「情というかなんというか」
弘「情というものは一円の価値もない。だいたいお前はやさしすぎる。
お前は妻も子供もいるんだろ。肉食え」
順「あっ、すみません」
弘「そんなこと言う前にお前は自分のことを考えろ。気づかないか。三家がいることで
お前も色めがねで見られるんだぞ」
順「それは困る」

順は肉を食する。弘はそれを見て肉を食する。

弘「不要なものをぶったぎれ。三家の書いたレポートなんざ全部削除しろ。
ファンはそんな人のレポートなんざ見たくないんだ」

順の携帯が鳴る。弘が順の携帯を見る。

順「行ってるそばから三家からメール来た」
弘「ぶぅたぎれ」

順はメールを読む。なんで情報あげたのにお礼がないんですか。ふざけるな。
と書いてある。

順「情報に対して反応しないから怒っている」
弘「順。こうしよう。三家を切るかわしをきるかどっちかにしろ」
順「弘さんのパイプ切られるくらいなら」
弘「ならぶった斬れ。三家から卒業しろ」

弘は立ち上がり上着を着る。順がウーロン茶を飲み干し上着着て個室を出る。

●順の家(夕)

広井順子(41)が荷物をもってドアを開ける。順が玄関に向かい荷物をもって居間に運ぶ

順子「重かった。大根が39円だから買ってしまったわ」
順「重たいものあるなら電話してくれれば運ぶの手伝うよ」
順子「次回から頼むわ。昨夜、夜遅かったから、順が疲れているだろうと思って」
順「まあ昨日は遊びの会だ。別だよ」
順子「でも平松との大事なパイプ役の業界人でしょ?昨日はどうだった?」
順「三家をぶった斬れと」
順子「そうか。もう暁さんもさじ投げたのね。三家さんは病気というか、
うストーカーに近いからね。私も三家さん古い付き合いだから、
うのは止めないけど私もあんまりと思う」
順「また、悪いタイミングにメールきて、何故メールをすぐ返さないのと」

順子「病的なものを感じるね。もう切ってもいいんじゃない?
ライブレポートとかもう読む人いないんじゃない?」
順「そうだな。別に三家のレポートなくてもサイトコンテンツはたくさんある。
特に今は必要といは思わない。13年の付き合いだけど、三家がうちらを
カップルにしたようなものだけど、もう関係ないな」
順子「もうやめよう。一番になるとか、思い通りにするとか意味ないと思う」

チャイムが鳴る。順はゆっくりと玄関を開ける。三家回子(29)が
不機嫌そうに立っている。三家は白と黒のふりふりのドレスを着ている。

三家「てめえ、なんでしかとしてるんだよ」
順「何?何?その姿?」
三家「そんなことはどうでもいいんだよ。なんでしかとしてんのか訊いてるんだよ!」
順「んん?ああ、メール送ったの?読んでないや。ああ、送ったんだ。知らなかった」

順子は三家の姿を見て個室に入る

三家「とぼけてるんじゃねーよ。メールはすぐにみろよ。その前になんでラインやんねーんだよ。
逃げてんのか?」
順「僕の携帯はガラケーだからラインできないんだよ」

順はポケットからガラケーを取り出し三家に見せる。

三家「私とラインやりたくないからそんなものにしてんだろ」

順はため息をつく。

順「なんで僕が君の為だけにガラケーにしなければならないんだ?あなたは
そんなに注目されてると思ってんのか?あなたは芸能人か?一般人だろ。
なぜそんな決めつけができるんだ?うちはタブレットあるからスマートフォンは使わないんだ。
金がかかるからな。自分中心で世界が回ってると思ってんじゃないか」
三家「ぐだぐたいうな。メールはすぐ読め」
順「意味がわからないな。別に僕はあなたの部下じゃない」

三家はひざをこする

三家「あー寒い、寒い」
順「悪いけど中には入れないよ。呼んでないし。何しにきたの?」
三家「ナニそれ?むかついた。あたしはとても傷ついた。
あたしはあんたの為に、たくさん情報やらレポートやら書いたのに」
順「のに?ナンダ?あたしの想いどおりに?」
三家「そんなこといってんじゃねえよ。今まで書いたレポート返して!」
順「ああ、いいよ。望みどおり返してやる」

順は自分の部屋に行き、USBメモリステックを持ち出して三家に投げる。

三家「ひどい。あたしのレポートいらないというの?ひどすぎる」

三家は大声で泣きだす。

順「返せといったからそうしただけ。HPもお前のレポート削除するよ」

三家「あたしの何が悪いのよ!」
順「三家さんよ。お前は病気だ。ストーカーだ。君は私の妻でもないし
愛人でもないし、私には妻がいる。君のやっているのはただのストーカー行為だ。
僕のサイトを利用して平松の1番になろうと思ってるようだが、それが一体
何になる?そんなことより自分の相手見つけて、仕事するんだな。
僕は君から卒業する。今後、君とは、連絡しない。返事しない」

三家は座りこみ大泣きする。

順「13年の付き合いだが、僕は君から卒業する。情報もレポートもいらない。
もうそんな必要もないし、そんな時代じゃない。
最後の情けでいうが29だろ。そんな現実から逃げたような服やめて
自分を見つめろ。さよなら。」

順はドアを閉める。順子がゆっくりと個室から出てくる。

順子「やっちゃったね。よかったの?」
順「けじめだ。卒業。彼女は悪いことは全部、平松のせい、僕のせいにする。
彼女の為にならない」
順子「昔はあんなんじゃなかったのに残念」
順「ちゃんとした人生を歩んでほしい。あの人は卒業すべきだ」
順子「そうだね」

順はパソコンでファンサイトを開く。

順「変に力のあるサイトだからこうなるんだ」
順子「どうしたの?」
順「僕も卒業するんだ」
順子「まさか全部捨てるつもり?あれだけ熱の入れたサイト削除するの?どうかな?」
順「いや、今までやってきた歴史は遺したい。平松に罪はないし。ただ掲示板は削除
三家のレポートは削除する。そしてこれ以上サイトをいじらない。
自分は見ない。僕も卒業するんだ。これを機会に。」
順子「おっかけもやめるの?」
順「しばらく行かない。僕たちのライフがある」
順子「それもいいかもね。でもこれから何をやるの?」
順「サイトやってるうちに話を作ることが好きになった。今後はそっちの道を選ぶ」
順子「それも面白そうだね。順の作ったストーリー好きだし」

●順の家(夜)

順はパソコンをいじっている。部屋の時計は20時15分を示している。
順子が部屋に入ってくる。

順「ちょうど、最後の更新を終えたとこだ」
順子「夢が広がるね」
順「人生は転機があるから面白い」

順の携帯が鳴る

順子「まさか、三家?」
順「いや、暁さんにメールして返信がきた」
順子「何だって?」
順「次のステージ向かって歩けと」
順子「いいメッセージね」

END

ページの先頭へ