この街のどこかで

この街のどこかで

平松愛理

この街のどこかで

平松愛理

この街のどこかで

平松愛理さんの曲’この街のどこかで’を テーマにした短編集です。

’通過する駅’

ああ、この駅を通り過ぎた。かすかな思い出。 目で会話するあなたに魅かれて、本気の2度の告白。 ’よく考えたんだけど・・お友達で’というあなたの声 躊躇がちだったね。 私にはその意味は十分に分かっていた。 いや逆に全然わかってなかったかもしれない。 ’友達で・・と言われたとき、その瞬間 あなたに違う彼氏ができたときのこと想像してしまった私は ・・男はなんていやな生き物なんだろうと思った。 本気になりすぎた恋にいい最後のシーンはないのか あなたは友達になろうと努力してくれたね、 私にもあなたの心のやさしさ感じた。・・・いや 教室ですれ違う二人 ’おはよう’といいかけるあなたの声 プライドではなかった。嫌いになったんでもなかった。 でもなぜか素直になれない自分がいる。 私は目を閉じてとおりすぎる あなたは多分、いつかの晩、おお泣きしたね ・・決心したね。 友達を止めよう。と。私は肌に感じたよ。 プライドだったね。 ぽっかりと開いた心に大きな後悔 子供であった自分に反省しても もうあなたは振り返らない。 ちょうど、通過したこの電車のように。

’ひとり暮らし’

この街にくると、あの頃を思い出す。 あの頃、一人暮らしをしていた あなたとよく電話してたこと。 表情の豊かな女性だったね。 よく電話をした。あなたの一人暮らしに甘えて。 大概は、互いの恋の話。 いつでもまじめにきいていた自分が意見をいうと あなたはすぐ泣いてしまったね。 申し訳ないと思っていると、次の時は元気で強気だった。 私、気分の上下が激しいのという、 あなたのプライド、頼もしかった。 あなたもよく自分を叱ったね。 ’なんでも予想したがるあなたは軟弱で卑怯よ!’ この1発はきつかったな。 お互いいいたいこといいあう、すごくいい関係。 だけど少しでもバランス崩してしまうと、 関係は悪くなるばかり。 それでも三日に1回のペース忘れられずコール 電話に出たあなたの声。そのとき ’日は沈んでしまった’こと悟ったよ。 電話するごとに何かのヒントになった二人はいずこ。 駅の周りの道で誰かが携帯で話している。 私は颯爽と歩く。気付かなかったふりをして。

’学校’

ふと駅を降りるとあの人の街 一歩かみしめるごとに若き自分をだぶらせる そう、この方向だったね。あの頃の鼓動思い出す。 たまたまとなりの席になった女性 たんたんとリズムのあるさわやかな女性だったね。 消しゴムを貸した私へさやわかな笑顔 たわいない言葉 会話 当たり前の日々のリズム このリズムに慣れてしまっていた。 突然あなたは風にさらわれてしまった。 失ったリズム、私は迷子になってしまった 何か物足りない日々、探そうとする心 ただリズムを取り戻したいのか、恋なのかもわからず、 手紙たち、迷走する。 あなたの心が動くことはなかったね。 私はそれを悟った時、リズムを追うのはやめた。 この駅は何年かに1回は降りる。 記憶の底にしまってある手紙が、降りた日だけよみがえる。

'座席'

そういえば、この線よくつかったなあ。 座席に座ると思いだす光景。出来事。 私は人を好きになったときは告白することにしていた 振られるのは仕方ない。だけど。 どうしていいかわからない。 普通に話しかけると避ける。 話さないでいると不機嫌になる。 その人との距離感をつかめずにいる。 ある日、この車両の近くにその人が入ってきようとして避けた。 その人の態度にめんどくさくなった私は 自分がその車両を降りて、反対側の端の車両にうつった。 その後、私をその人が見かけても反応しなくなった。 普通に話せるようにはなれなかったのかな。 ちょっとした後悔だけが残る。 そういえば、この時間だったっけなあ。

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